昨年12月23日、当事務所の弁護士2名は、クリスマス直前で賑わう渋谷を飛び出し、新宿に向かいました。訪れたのは、伊勢丹新宿店にほど近いビルにある、「新宿こども囲碁教室」です。

 ビル3階に上がると、可愛いポスターや、ほのぼのとした注意書きが貼られた廊下が教室へと誘ってくれます。癒された気分でドアを開けると、教室主催者である藤澤一就八段が、爽やかな笑顔で出迎えてくださいました。

Q 「新宿こども囲碁教室」は、いつ、どのようなきっかけで始められたのですか?

 教室を開いたのは2000年4月です。囲碁界は、ずっと日本がリードしてきたのですが、近年は韓国・中国勢が台頭し、日本勢が勝てなくなってきていました。世界で戦えるような子どもたちを育てたいと思ったのがきっかけです。

Q 2000年というと、漫画『ヒカルの碁』が連載されていたころですね?

 そうです。当初は13人しかいなかった生徒が、翌年から放送が始まったアニメ『ヒカルの碁』の影響で一気に増え、200人近くになりました。放送が終わると一度減りましたが、その後徐々に増加し、コロナ禍前には220~230人はいたでしょうか。今も約170人の生徒さんが通っています。

Q 『ヒカルの碁』終了後も、囲碁を習わせたいと考えるご家庭が増えている、ということですね。

 はい。囲碁のマインドスポーツ(頭脳を使った競技)としての面、日本の伝統文化であるという面、その両方が重視されているようです。
 囲碁は、中国や韓国では頭をよくするマインドスポーツとして、多くの子どもたちが学んでいます。欧米でも、例えばビルゲイツは囲碁の愛好家として有名ですし、ノーベル化学賞を取ったデミス・ハサビスはAIを使った囲碁ソフトを開発しました。

 日本の大学でも、囲碁が思考力や判断力を養うことに注目し、東大が正式授業として取り入れたのを皮切りに、現在、40以上の大学で囲碁の授業を行っています。東大では非常に人気があり、選抜もあるそうです。
 そして、囲碁は、日本の伝統文化でもあります。かなり古い時代に大陸から入ってきたとされており、例えば、『古事記』には、イザナギノミコトとイザナミノミコトが最初に生んだ島として“淤能碁呂(オノコロ)島”のことが書かれていますが、ここに「碁」の文字が入っています。正倉院にも、3面の碁盤が納められています。皇室でも、古くから碁盤から飛び降りる儀式が行われています。
 囲碁は、日本国内で発展を遂げ、近年までは世界をリードしてきました。世界大会でも「GO」と呼ばれています。
 このように、知育にも良く、日本の伝統的な習い事でもある囲碁を習わせたいと考えるご家庭が、中学受験熱の高まりとともに増えているように思います。

Q 「新宿こども囲碁教室」の生徒さんの中には、プロ棋士になった方もおられるのでしょうか。

 はい。当教室からは16人がプロ棋士になり、日本代表として世界戦に出ている棋士も何人もいます。
 上野愛咲美六段は、今年(2024年)、女子の世界戦で2度目の優勝を果たしました。彼女は、普段は天然キャラなのですが、囲碁をしているときは別人となり、人が話しかけても何も聞こえていないほど集中しています。

Q お教室には、何歳くらいから習うお子さんが多いのでしょうか。

 5,6歳です。当教室では、年に2回、“5歳のGO”という大会を開催していますが
(次回は2025年3月20日 🔗(一社)伝統文化棋道振興財団様サイト 🔗藤澤一就一門 後援会様サイト)、沢山の5歳児が参加しています。
 そんなに小さくて囲碁ができるのか、とびっくりされますが、問題ありません。当教室の生徒たちは、夏、春、冬休みには1日6時間、教室で囲碁を打っています。

Q とはいっても、おとなしく座っていること自体が難しい子も多いと思うのですが…

 私も子育てを経験していますし、子どもがじっとしていないのは、当たり前だと思っています。でも、個人差はあるにせよ、子どもには、大人が思うよりずっと集中力があるのです。
 ある男の子は、暴れん坊で常に走り回っていて、親御さんはとても心配しておられました。でも、その子をよく観察すると、ごく短時間ですが、物凄い集中力を発揮することがわかりました。その子は、今プロ棋士です。

 教室では、一人ひとりの子どもの個性を踏まえ、その潜在能力や集中力を伸ばすにはどうすればいいかを考えています。タイミングよく褒める、休憩を細かく入れる等の工夫も大切ですね。また、昇段する喜びを感じてもらうことも、子どもたちの意欲を高める要素の1つと考えていますので、当教室では段も細かく設けています。
 子どもの成長を見られることは、私にとって一番の楽しみです。

Q 藤澤八段にとって、囲碁の魅力とは何でしょう。

 何よりも楽しいこと、そして楽しみながら集中力を養えるところです。集中力を養うことは、この先どんな人生を歩むにしても非常に大切です。
 当教室の出身者には、進学校や東大に進学したり、司法試験や医師国家試験に合格したりする子も大勢いますが、小学生で5,6時間囲碁を打ち続けられた集中力があれば、受験勉強も容易なはずです。
 また、囲碁は、進学等で一度離れても、またいつでも始めることができます。当教室にも、卒業生がお手伝いとして戻ってきてくれたり、遊びに来てくれたりします。

 多くの子どもたちに囲碁の魅力を知ってもらいたく、“ヒカルの碁寄贈プロジェクト”にも参加しています。一門の棋士は、1勝するごとに千円を寄付します。それを積み立てて、東京都内の小学校・児童館・児童養護施設などに『ヒカルの碁』の漫画を寄贈しています。
 もちろん、囲碁は大人にもお勧めで、何歳で始めても楽しんでもらえると思います。デザイナーのコシノジュンコ先生は80歳を過ぎて囲碁を始められ、今も楽しんでいます。大人を対象とした初心者向け囲碁サロンも定期的に企画しています。
 これからも教室を続けながら、広報的なイベントを企画し、囲碁の楽しさ、素晴らしさを知ってもらうための活動をしていきたいと思います。

インタビューを終えて

 藤澤一就八段の軽妙で温かい語り口には、囲碁普及への情熱と、お弟子さんや生徒さんへの温かい思いが溢れていました。
 漫画『ヒカルの碁』でしか知らなかった囲碁の世界、実に楽しそうです。皆様も一緒に始めてみませんか?