遺言執行者の所有権移転登記抹消登記手続請求の訴えにおける原告適格を認めた事例
【最高裁判所2小令和5年5月19日判決
家庭の法と裁判47号45頁
民集77巻4号1007頁】
[事実の概要]
事案は複雑であるので、遺言執行者の原告適格を認めた部分に限定する。
事件関係者
は次のとおりである。
h23.1 Z 後日判決で無効とされた遺産分割協議に基づき本件土地をZの単独名義に所有権移転登記
h23.7 A 公正証書遺言
(遺産の1/3をDに包括遺贈
1/6をEに包括遺贈(放棄)
1/2をCに相続指定
h23.4 遺言で指定された遺言執行者が前月就任辞退のため家裁が遺言執行者Xを選任
h23.6 Z Y1,Y2,Y3に本件土地を売却・所有権移転登記(本件登記)
h25.9遺産分割協議無効確認地裁判決
h27.9最高裁で同判決確定
h30 XはY1,Y2,Y3を被告として本件抹消登記手続請求などの訴え提起
r1.6 東京地裁は、
相続させる遺言の相手方である相続人に遺産たる不動産の所有権移転登記を取得させることは「遺産の執行に必要な一切の行為」(民1012-1)に当たり、遺言執行者の職務権限に属する。
遺言執行の一部としてY1らに対し、抹消登記手続を求めることができる。
として原告適格を認めた
別件訴訟判決はXとCとの間で遺産分割協議無効確認がされたもののすぎずその規範力は本件訴訟には及ばないし遺産分割協議を無効とすべき証拠もないからXの請求は理由がないとして抹消登記手続請求棄却判決
r3.10 東京高裁判決
別件判決の規範力に触れることなく、証拠上(弁論の全趣旨であろう)遺産分割協議は無効であると認定した。
X原審原告の原告適格についは原審判断を引用してそれを認め高裁独自の判断はしなかった。
そのうえで、Zの法定持分については処分権限があるとしてそれに関する請求は棄却し、その余の部分についてのみ請求認容の判断をした
(控訴審でZがY1,Y2,Y3に補助参加)
【本判決の概要】
本判決は、従来明らかにされていなかった相続分の指定及び割合的包括遺贈がある場合における遺言執行者の職務権限について最高裁判所としての判断を示した点に意義がある。更に包括遺贈が放棄された場合に、当該遺贈対象遺産の帰属先につて民995の解釈を示した点でも注目される。
争点の概略は、ZとY1ら間の売買契約の無効を原因とする本件登記の抹消登記手続を求める訴えに関して上記公正証書遺言のD割合的包括遺贈、E割合的包括遺贈、C相続指定によるX遺言執行者の原告適格が認められるかである。
1)相続分の指定と遺言執行者
反対説もあるが、本判決は、従来の通説にそって、相続分の指定は遺産分割まで遺言執行者に委ねるものではなく、相続分の指定それ自体は遺言の効力発生により実現されており、遺言執行者は遺言内容を実現する者である以上、権限を有さないと判断したものと解される。この部分は訴え却下。
2)割合的包括遺贈と遺言執行者
反対説もあるが、本判決は、割合的包括遺贈は、相続開始時の権利取得で実現されるものではなく、具体的な財産の帰属先の決定とその対抗要件の具備までをもって遺言執行者の職務範囲と判断したものと解される。この部分は実体判断。祖母持分1/3については請求を認容し(主文1(2))それを除くその余の部分についてまで抹消を求める必要があるとは認められないとして原告適格を否定(主文1(1))。
3)割合的包括遺贈の放棄と相続対象財産の帰属及び遺言執行者
放棄された遺贈による相続対象財産の帰属は、相続人に帰属するから、別段の意思表示がなければ、遺言執行者の職務権限外と解される。
い。この部分は訴え却下。
【ひとこと】
本判決は、平30年法72号による改正前の民法が適用事件であることに注意が必要である。改正後の扱いについては、平野秀文「判例批評」ジュリスト1591号82頁などを参照されたい。
なお、この論稿作成に当たって、TKCローライブラリー 新・判例解説Watch◆民法(家族法)No.152小川惠「相続分の指定および包括遺贈がされた場合の遺言執行者の職務権限」を参考にした。