婚姻費用
婚姻費用分担審判において、嫡出の推定を受けない子との父子関係の存否を審理判断することなく、上記子に対する扶養義務を認めた原審の判断には法令違反があるとした事例
[最決2023(令和5)年5月17日 家裁の法と裁判47号63頁]
[事実の概要]
- 相手方(妻)は抗告人(夫)と婚姻し、Aを出産した。妻と夫は、約5年間に亘り、Aを両者の間の子として監護養育した。
- 妻はAを連れて、夫と別居した。夫は、Aが自らの子であるか疑問を抱き、DNA検査を実施したところ、結果は、夫がAの生物学上の父であることを否定するものであった。
夫は、親子関係不存在確認調停及び夫婦関係調整(離婚)調停の申立をしたが、いずれの調停も不成立により終了した。 - 妻は夫に対し、婚姻費用分担調停の申立てをしたが、不成立となり、審判移行した。
原々審の大阪家庭裁判所岸和田支部は、本件父子関係は存在しないとした上で、妻が夫に対して婚姻費用の分担を求めることは信義則に反するなどとして、妻の申立てを却下した。妻は、即時抗告をした。 - 原審の大阪高等裁判所は、妻が夫に対して婚姻費用の分担を求めることは信義則に反するなどとした上で、要旨次のとおり判断して、婚姻費用分担調停の申立ての日の属する月の翌月から、離婚若しくは別居状態の解消又は訴訟における本件父子関係の不存在の確定に至るまでの間、夫が妻に対して月額4万円を支払うべきものと決定した。
夫がAの生物学上の父であることはDNA鑑定によって否定されているものの、本件父子関係はこのことから直ちに否定されるものではなく、その存否は、訴訟においてその他の諸事情も考慮して最終的に判断されるべきものである。したがって、本件父子関係の不存在を確認する旨の判決が確定するまでは、夫はAに対する本件父子関係に基づく扶養義務を免れないから、Aの養育費相当額(月額4万円)は、夫の分担すべき婚姻費用に当たる。 - 夫は原審の決定を不服として、抗告をした。
[決定の概要]
- 婚姻費用分担審判の手続において、婚姻費用に、民法772条による嫡出の推定を受けない子の監護に要する費用が含まれるか否かを判断する前提として、上記子に対する夫の扶養義務の存否を確定することを要する場合に、裁判所が父子関係の存否を審理判断することは妨げられない。
- Aは、妻が夫との婚姻の成立の日から200日以内に出産した子であり、嫡出の推定を受けない。そうすると、父子関係に基づく扶養義務の存否を確定することを要する場合に、裁判所が父子関係の存否を審理判断することは妨げられない。
ところが、原審は、本件父子関係の存否を審理判断することなく、夫のAに対する本件父子関係に基づく扶養義務を認めたものであり、この原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。 - そして、原決定後に夫から提出された判決の正本及び同判決の確定証明書によれば、本件父子関係が存在しないことを確認する旨の判決が確定したことが認められるから、夫がAに対して本件父子関係に基づく扶養義務を負うということはできない。
本件の事実関係の下において本件申立てを却下した原々審判は正当であり、原々審判に対する抗告を棄却すべきである。