当事者間の合意に基づき養育費の支払を求める場合、家事審判への申立ては不適法であり、地方裁判所に対して訴えの提起をして判決を求める民事訴訟手続によるべきとした例
(東京高裁令和5年5月25日決定【原審・千葉家裁松戸支部令和4年9月16日審判】家庭の法と裁判49巻70頁)

【事案の概要】
≪当事者≫相手方(原審申立人)X、抗告人(原審相手方)Y、

令和2年 XとYが協議離婚、子らの親権者はX
YがXに対して令和3年1月から子らが高校を卒業する3月まで、子一人あたり月3万円の養育費を支払う旨合意(当事者間で『離婚協議書』作成、以下「本件合意」という。)
令和3年12月 Yが、Xが本件合意のうちの禁止規定に違反したため本件合意の支払終了規定が適用されるとして養育費の支払をやめる
令和3年12月 Xが家庭裁判所に子らの養育費として毎月相当額の支払を求める調停を申し立て→調停不成立、審判に移行
令和4年9月16日 原審は、本件合意に基づく養育費支払義務は存続しているとして、YはXに対し子一人につき1か月3万円を支払うよう命じる

 

【争点】
 家庭裁判所は、①当事者の協議が整わないとき、または②協議をすることができないときは養育費等を定めることができ(民法766条2項)、また、③必要と認められる場合には養育費等の定めを変更でき(同条3項)、その裁判は執行力のある債務名義と同一の効力を有する。では、当事者間に合意が成立しているが義務者が任意に履行せず、かつ合意を変更すべき事情変更も認められないような場合、債務名義作成のためにどのような裁判手続によるべきか。

【裁判所の判断】
 原審判取消、申立てをいずれも却下
 本件合意に基づきYに対し子らへの養育費を支払うよう命じることを求める場合には、地方裁判所に対してYを被告とする訴えの提起をし、判決を求める民事訴訟手続によるべきであって、これを家庭裁判所に対して求めることはできない。

【コメント】
 合意成立に異議がある場合や、算定表に基づく新たな取決めを求める場合、事情変更による増額(減額)を求める場合などは家裁の審判によることができる。本件でも、もし本件合意の支払終了規定が明らかに適用されるといえるなら、民法766条2項、3項に基づき家裁が定めるとすることもできると思われる。