【東京高決2022(令4)年10月31日 家庭の法と裁判46号56頁】
【事実の概要】
A(抗告人)は、元妻Bが監護養育する長男に対する面会交流を定めた調停調書に基づき1か月1回の面会交流を行っていたが、Bが新型コロナウイルス感染症の感染拡大中であることを理由に令和2年3月から5月までの間の3回の面会交流についてのみ、その実施を拒絶した。そこで、Aは、Bに対し、執行力のある調停調書に基づき、未実施となった3回の面会交流につき、①主位的に、協議の上、代替日を定めて面会交流させるよう求めるとともに、その不履行1回につき20万円の支払を求め、②予備的に、日程を毎月第1日曜日、代替日を第2日曜日などとして面会交流させるよう求めるとともに、その不履行1回につき20万円の支払を求めるなどの間接強制を申し立てた。原審の横浜家裁は、①主位的申立ては、調停調書中の代替日条項である第3項⑵第2文(長男や当事者の都合により、面会の日時を変更するときは、当該事情の生じた当事者は、他方に対して速やかに連絡して、双方協議の上、代替日を定める。)は相手方の給付義務の内容を具体的に定めたものとはいえないとして、②予備的申立ても、Aが求めるような内容で代替日を設定すべき義務が定められていないなどとして、Aの申立てを却下した。そのためAがこれを不服として執行抗告をした。
【決定の概要】
本件抗告審は、調停調書の代替日条項だけでなく、面会交流を定めた第3項全体から判断すると、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法について具体的に定められているということができ、面会交流の実施につき、相手方がすべき給付の特定にかけるところはない(最高裁平成24年(許)第48号同25年3月28日第一小法廷決定・民集67巻3号864頁参照)と判示した。しかし、Bが面会交流の実施を拒否した令和2年3月から5月までの期間は、新型コロナウイルスの実態や危険性等が十分に解明されていない状況にあり、少なくとも直接的な面会交流については、社会的に見て実施が困難だったと言わざるをえないことなどから、Bに面会交流義務の不履行があったとの評価を下すことは容易にし得るものではなく、Bに対して不利益を課するのは相当に酷であること、仮に3回分の不実施面会交流について本件申立てのされた同年6月以降に実施するとなると、面会交流の頻度が1か月に2回以上となって長男やBの負担が増大し、面会交流の頻度を1か月に1回と定める面会交流条項の趣旨に反するものになりかねないことなどを総合考慮すると、AがBに対し、強制金の心理的強制の下に、通常の面会交流の実施に加え、3回分の不実施面会交流について別途代替日を定めて面会交流を実施することを求めることは、過酷な執行として許されず、このような決定を求める申立ては権利の濫用に当たると言わざるを得ないと判示して、本件抗告を棄却した。
【ひとこと】
面会交流を定めた調停調書を債務名義とする間接強制の申立てが権利の濫用に当たると判断された特殊な事案である。