NHKの朝ドラ「虎に翼」で主人公が裁判官になり、裁判官用の黒い上着を着るようになりましたので、今回は、その黒い上着について私の裁判官時代の記憶も交えてお話したいと思います。

 

「虎に翼」のロケ地である名古屋市市政資料館では、戦前の法廷が再現されている(2022年2月撮影)。向かって左から検察官1人、判事3人、書記1人が着席している。

まず、この上着は、正式には「制服」と言います(裁判官の制服に関する規則)が、裁判官自身も「制服」と言う人は殆ど皆無で、皆「法服」と言っていましたので、このコラムでも「法服」と言うことにします。

私が裁判官になった昭和49年当時は、法服に男女の別はなく、前ボタン留めで、合わせ目は和服と同様の右前合わせでした。

そして右と左にポケットの穴が付いていましたが、どちらのポケットにも袋部分が無く、ただ穴が開いていただけで、その下に履いていたズボン(パンツ)のポケットに手が入るようになっていました。

女性のスカートには通常ポケットは付いていませんから、女性裁判官は法廷に入る時にはハンカチなどを入れた小さなバッグなどを持って入る必要がありました。

生地は、同規則で黒色羽二重とすると定められていましたが、この羽二重はお世辞にも上質なものとは言えず、袖部分がよく擦り切れ、下に着ている白ワイシャツが見えたりしたものです。

冬場、暖房用石炭ストーブに近づき過ぎて法服の袖を焦がした裁判官もいたと先輩から聞いたことがあります。

法服が破損汚損してもなかなか新品の貸与はして貰えない時代でした。

ドラマ主人公のモデル三淵嘉子さんは昭和54年に裁判官を定年退官されていますから、定年までこのような法服を着用されたことになります。

名古屋市市政資料館の中央階段(2022年2月撮影)。中央階段を登った先にはステンドグラスがあり、そこには天秤が描かれている。

平成4年に規則が変更され併せて通達も出されて新しい法服が定められらました。

羽二重という文字が削除され法服は化学繊維(ポリエステルらしい)製で丈夫になりました。

また、この新規則通達では、女性裁判官用の法服が新たに定められました。

それまでの男女裁判官共通法服と違い、打ち合わせが、女性用洋服と同様、左前になりました。

また、これと同時期に法服の左側には本物の縦ポケットが付きました(女性裁判官に現物を確認して貰いました)が、前記新規則通達にはポケットについての記載はありません。

更に女性裁判官が首に巻けるスカーフが貸与されました。

実際に使ったことのある女性裁判官は、淡いペパーミントグリーン色だったと言っていましたが、Wikipediaにはシャーベットグリーンとなっています。

このスカーフは、結ぶのに時間がかかるということで、女性裁判官には不評だったようです。新たに貸与された当時はスカーフを着用する女性裁判官が多かったのですが、着用する裁判官はだんだん少くなくなってきました。

ただ最高裁の女性裁判官は、皆さんスカーフをしているようです。

さて、ポケットの話に戻りますが、女性用法服にポケットが付くようになったのと同時期に男性用にも付いたようです(制服納入業者との契約書にはそのように読める記載になっています)。

しかし令和元年に法服の貸与を受けた男性裁判官に現物を確認して貰ったところ、左右両方ともポケットの穴だけで袋部分は付いていなかったそうです。

最大の疑問はスカーフにあります。

これは裁判官の法服の形状を定めた前記新規則通達には何らの記載がありませんし、上記契約書にも記載はありません。

最高裁が気が向いたら使ってねという程度のアクセサリーとして貸与したものであって制服の一部ではなさそうです。

 弁護士 松田 清