養子縁組をした目的も考慮して「縁組を継続し難い重大な事由」は認められないとした例
名古屋高判令和3年6月11日家法45巻54頁
【事案の概要】
平成19年、X(控訴人、養親、70代女性)とY(被控訴人、養子、10代男性)が養子縁組を行った。
Xとその夫Aとの間には、長女B、長男C、二男Dがおり、Yは長男Cの子であった。
本件養子縁組は、E家の財産をYにも継がせることや相続税対策等を目的としており、AとCが主導した。
平成26年、Aは、その遺産をCとYに相続させる内容の公正証書遺言を作成した。
平成28年、XA夫婦の自宅が火災により焼損し、Aが死亡した。 火災後、Xは長男C宅に身を寄せた。YもXのために当面の衣類を購入するなどした。
平成29年3月以降、Xは長女B宅で生活するようになり、同年9月以降は、二男D宅で生活するようになった。
平成29年4月、X・B・Dは、C・Yに対し、遺留分減殺請求調停(別件調停)を申し立てた。
YはCと同一の手続代理人を選任し、調停の進行をC及び手続代理人に任せ、調停期日には出席したの一回のみであった。
別件調停申立て後、XとYの関係は疎遠になり、直接会うことはなくなった。
一周忌以降のAの法要は、X・B・DとC・Yがそれぞれ別個に行うようになった。
平成31年3月、別件調停が成立した。
【争点と当事者の主張】
争点
:「縁組を継続し難い重大な事由」(民法814条1項3号)の存否
Xの主張
:A名義の財産の多くは遺言によりC及びYが相続したことにより、税金対策や不動産を主とするE家の財産を長男たる男子に集中させてE家を末永く反映させるという本件養子縁組の目的を達しており、XとYの養子縁組を継続させる理由はなくなった。
【裁判所の判断】
「したがって、XとYとが約4年間にわたって顔を合わす機会がほとんどないほど疎遠になり、XがYとの縁組解消を希望する旨述べていることを踏まえても、本件においては、E家の財産をCのほか、その長男であるYにも継がせるという本件養子縁組の主たる動機は未だ達成されていない(この目的が達成されるのはXが死亡して、その相続が開始された時である。)ところ、上記目的を取り消して離縁を認めることを正当化することができるようなYの側の有責行為の存在は認められないうえ、祖母であるXと孫であるYという関係においてされた本件養子縁組が、回復し難いほどにまで既に破綻しているとも認められず、縁組を継続し難い重大な事由は認められない。」
【評価】
有責主義から破綻主義へという展開は、離縁においても同様に理解されている。
有責主義によれば、離縁が許されるためには、原告が無責であることと被告が有責であることとが要求される。これに対し、破綻主義では、被告人に責任があるかどうかを問わずに、ただ養親子関係の破綻という客観的事実の存在する場合に、その破綻的事実を離縁原因とする。
縁組における自然的全人格的要素は、個々に濃淡の差を伴いつつも、婚姻より希薄である。そのことから、まず、性格的不一致はそれだけにとどまっている限り、離縁原因とはならない。また、縁組の「目的」(習俗的親子関係を擬制的に形成することを手段として、それによって果たそうする社会的目的)が実現困難な場合には、破綻を肯定しうる。なお、「目的」の考慮に当たっては成年養子と未成年養子とで異なる配慮が必要である。
本件は、Yの有責性に言及しつつも、XYの関係性や本件養子縁組の目的等を考慮した点で破綻主義的な判断をしている。