子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の方法による子の引渡しの強制執行の申立てについて、権利濫用に当たらないと判断した例

【最決2022(令4)年11月30日 家庭の法と裁判44号42頁】

【事実の概要】
抗告人とその夫である相手方との間では、相手方が監護する両者間の長男及び二男の監護者をいずれも抗告人と指定し、相手方に対して子らを抗告人に引き渡すよう命じる内容の審判が確定していた。
抗告人は、相手方宅に赴き、二男の引渡しを受けたが、長男については、長男自身が強く拒絶したため、引渡しをうけることができなかった。また、その2か月後、長男と二男を面会させる機会を設けた際にも、長男が抗告人を拒絶したため、引渡しをうけることができなかった。
そこで、抗告人は、相手方に対し、本件審判を債務名義として、間接強制の方法による子の引渡しの強制執行を申し立てた。
原々審は、相手方に長男を引渡すよう命ずると共に、これを履行しないときは1日につき2万円の割合による金員を抗告人に支払うよう命ずる決定をした。
原審は、本件審判を債務名義とする間接強制決定により相手方に長男の引渡しを強制することは、過酷な執行として許されず、本件申立ては権利濫用にあたるとした。
この点、子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ、子の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる債務者の行為は、具体的に想定することは困難であるとして、当該間接強制の申立てを権利の濫用にあたるとした判例が存在する(最高裁平成31年4月26日第三小法廷決定・裁判集民事261号247頁参照)。

【判決の概要】
家庭裁判所の審判により子の引渡しを命ぜられた者は、子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ、子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ、合理的に必要と考えられる行為を行って、子の引渡しを実現しなければならないものであり、このことは、子が引き渡されることを望まない場合であっても異ならない。したがって、当該子が債権者に引き渡されることを拒絶する意思を表明していることは、直ちに当該審判を債務名義とする間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではないと解される(最高裁平成31年4月26日第三小法廷決定・裁判集民事261号247頁参照)。
そうすると、本件において、長男が抗告人に引き渡されることを拒絶する意思を表明したことは、直ちに本件申立てに基づいて間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではなく、本件において、ほかにこれを妨げる理由となる事情は見当たらない。原審は、本件申立てが権利の濫用に当たるというが、本件審判の確定から約2か月の間に2回にわたり長男が抗告人に引き渡されることを拒絶する言動をしたにとどまる本件の事実関係の下においては、そのようにいうことはできない。原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。

●宇賀裁判官の補足意見
平成31年決定は、①間接強制の申立てに先立って引渡執行が行われた際、子が母に引き渡されることを拒絶し執行不能となったこと、②母が父を拘束者としてした人身保護請求の審問期日において、子が母に引き渡されることを拒絶する意思を明確に示し、請求が棄却されたことという事情があり、公的機関により、子の拒絶意思の明確性が確認されていたのに対し、本件では、そのような事情はないという相違がある(ただし、公的機関により子の拒絶意思の明確性が確認されていることが、間接強制の申立てが権利濫用に当たるとされる条件となるわけではないと考えられる。)。
間接強制の申立てが権利の濫用となるためには、債務者として引渡しのためにできる限りの努力を行うことは必要であると考えられるところ、本件において、相手方の、長男の抗告人に対する強固な忌避感情を取り除く努力が十分であったとまではいえないと思われる。そして、かかる努力を行っても、長男の抗告人に対する強い忌避感情を和らげることが期待できないと判断したときは、相手方は、長男の監護者の変更の申立てを行うことや間接強制決定自体を債務名義とする執行力の排除を求めて請求異議の訴えを提起することができる。