未成年者らの親権者である相手方(父)が、未成年者らを監護する抗告人(母)に対し、未成年者らを相手方に引き渡すよう求めた事案において、子の福祉の観点から現時点で未成年者らを相手方に引き渡すのは相当でないとして、相手方の申立てを認容した原審判を取り消し、相手方の申立てを却下した事例
【東京高決2021(令和3)年5月13日 家裁の法と裁判41号83頁】
【事実の概要】
- 相手方(父)と抗告人(母)は,未成年者らの親権者を父と定めて協議離婚した。
- 母は、父が不在中に自宅に行ったところ、未成年者らは寝間着に着替えずに寝ており、室内も散らかっている状態であった。そこで、未成年者らを母の実家に連れて行き、以降、未成年者ら及び母の父母と共に生活している。
- その後、父母間において、未成年者らの親権者が父であることを確認した上、父の面会交流等が実施されることを前提に、母に対し、当面の間未成年者らの監護を委ねる旨の調停が成立した。
- 父と未成年者らは面会交流を実施してきたが、未成年者らが中学受験をした等の事情により、父母間での日程調整等が円滑に進まなくなった。
- 父は、未成年者らの意向に反して母の実家の近くに転居した。その後、父と未成年者らの面会交流は実施されなくなり、未成年者らは、父からの電話やLINEにも応答しなくなった。
- 父は、子の引渡しの審判を申し立てた。未成年者らは、母に対する親和性を示す一方で、父に対しては、その言動等への嫌悪感を示し、同居したくないと述べ、父との面会交流も拒否する意思を表明した。父は、未成年者らと共に生活するようになった場合、年間300日以上の面会交流を可能にするとしている。
- 原審は、父の申立てをいずれも認容した。母は本件抗告をした。
【決定の概要】
- 母が父から未成年者らの監護を委託されているか
父は、面会交流の実施が母に監護を委託する前提とされているところ、面会交流が実施されていないから、母への監護の委託を解除するとして、未成年者らの引渡しを求める。
しかしながら、面会交流が行われなくなった責任が主として母にあるとはいえないから、父は母への未成年者らの監護の委託を解除することはできず、母は、現在でも父から監護を委託されているというべきである。 - 相手方に未成年者らを引き渡すべきか
母による現在の監護状況について、格別問題は認められず、未成年者らは、母に対する親和性を示す一方で、父に対しては、同人の一方的な言動や未成年者らの意見を聞こうとしない態度等への嫌悪感を示し、同居したくないと述べ、未成年者らが父の監護下に入るのは困難な状況である。これらの点を総合考慮すると、子の福祉の観点から、現時点において、未成年者らを父に引き渡すのは相当ではない。 - よって、原審判を取り消し、父の申立てをいずれも却下する。