不在者に対する債権者となる可能性があるにすぎない者は、失踪宣告の請求権者である「利害関係人」に該当しないとした事例
【東京高決2020(令和2)年11月30 日 家裁の法と審判43号90頁】
【事実の概要】
Cは死亡したが、その法定相続人は不在者(Cの父)のみであった。
弁護士である抗告人は、C死亡の前日に、Cとの間で、死後事務委任契約(Cが抗告人に対し、Cの死亡後にC名義の預貯金を解約し、解約金を受領することと等を委託し、抗告人が所定の報酬を取得すること等)及び家屋管理契約(Cが抗告人に対し、Cの生存中及びその死亡後にCが賃借する建物の管理等を委託し、抗告人が所定の報酬を取得すること等)を締結したと主張し、不在者について失踪宣告を申し立てた。
原審は、抗告人は「不在者の失踪宣告をすることについて法律上の利害関係を有する『利害関係人』に該当しない。」として、申立てを却下する審判をした。
抗告人は、これを不服として抗告した。
【決定の概要】
抗告棄却
「不在者の財産管理については、請求権者として利害関係人のほか検察官が規定されている(民法25条1項)のに対し、失踪宣告については請求権者は利害関係人に限られ、検察官は規定されてない(民法30条1項)。これは、不在者の財産管理は、不在者本人の財産の保護のための制度であって、公益的観点から国家の関与が容認されているのに対し、失踪宣告は、不在者について死亡したものとみなし、婚姻を解消させ、相続を開始させるという重大な効力を生じさせるものであるところ、遺族が不在者の帰来を待っているのに国家が死亡の効果を強要することは穏当でないという理由に基づくものである。そうであれば、民法30条1項の規定する利害関係人については、不在者財産管理人の請求権者におけるそれよりも制限的に解すべきであって、失踪宣告をすることについて法律上の利害関係を有するものというと解するのが相当である。」、
「抗告人は、仮に本件各契約が有効であるとしても、Cに対する債権者であって、不在者がCを相続したことを前提として不在者に対する債権者となる可能性があるにとどまるから、不在者につき失踪宣告をすることについて法律上の利害関係を有するとはいえない。」