1 Aさんからの相談内容

  A(60歳)は、自宅及び賃貸アパートなどの不動産を所有しています。

  妻B(59歳)との間に子供はいませんが、離婚した先妻との間に子供(長男C)がいます。

  Aは、自分の死後、Bに本件不動産を相続させるが、Bが亡くなったら本件不動産をCに相続させたいと希望しています。

  A自身の遺言では、Bに不動産を相続させることまでは指定できますが、Bの死後にCに相続させるという指定はできません。そのため、Bに頼んで、「Aから相続した不動産はCに相続させる」という内容の遺言を書いてもらうことも考えたのですが、Bが心変わりしてBの親族に相続させる旨の遺言に書き換える可能性もあって不安だといいます。

  また、この不動産の土地は、先祖代々受け継いできたものであるため、できるだけ、Aと血のつながった一族で今後も所有していきたいので、Cが相続した後は、その子供・孫に順次相続させたいとも希望しています。

  何か上手い方法はないでしょうか?

2 Aさんへの回答

(基本方針)

  信頼できる親族などと、遺言代用信託及び後継遺贈型受益者連続信託という信託契約を締結することにより、Aさんの希望を叶えることが可能となります。また、あわせて法律専門家などに信託監督人を頼むことで、受託者が忠実に信託業務を行うように図ることもできます。

  その基本的な枠組みは次のとおりです。 

 ① 委託者:A

 ② 受益者:A

 ③ 受託者:信頼できる親族など

 ④ 後継受益者:第一次の後継受益者はB。Bの死亡後の第二次の後継受益者はC。Cの死亡後はCの子供、孫といった直系卑属が順次その後継受益者となる。

 ⑤ 後継受託者:当初の受託者が死亡するなどしたら、受益者がAの親族の中から後継受託者を指定できる。

 ⑥ 信託目的:信託財産の適切な管理・処分により、受益者の生活・介護・療養・納税等に必要な資金を給付して受益者の幸福な生活及び福祉を確保すると共に信託財産の充実を図り、これを子孫に承継することを目的とする。

 ⑦ 信託財産:自宅及び賃貸アパートなどの不動産

 ⑧ 信託期間:信託がされた時から30年を経過した時以後に現に存する受益者が信託契約の定めによって受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで

 ⑨ 信託報酬:受託者に対する報酬金額

 ⑩ 残余財産の帰属権利者:最後の受益者の直系卑属(子供や孫)

 ⑪ 信託監督人:受託者を監視・監督する

 

3 上記信託契約による効果

  •  Aが所有している本件不動産の所有名義は受託者となった親族の名義となりますが、受託者は信託目的に従って本件不動産の管理処分を行わなければならず、収益はすべて受益者に交付しなければなりません。なお、所有名義は変わるものの、税法上は受益者が所有者と見做されるため、贈与税は発生しません。
  •  Aが亡くなると、Bが受益者となり、その際に相続税を負担するものの、本件不動産の収益を全て取得することになります。つまり収益の取得という点からすると、遺言により本件不動産を承継したのと変わりがありません。このような信託契約を「遺言代用信託」といいます。
  •  Bが亡くなると、Cが相続税の負担を負いつつ、次の受益者となり、Cが亡くなると、Cの子供が、その子供が亡くなると孫が順次相続税の負担を負いつつ後継の受益者となり、本件不動産の収益を取得していくことになります。このように受益者の死亡により他の者が次々と新しい受益者となっていく信託を「後継遺贈型受益者連続信託」といいます。

 ④ この後継遺贈型受益者連続信託は、信託法91条により、信託契約の30年経過後に新たに受益者となった者が亡くなるまで存続します。たとえば、2024年1月1日に信託契約を締結した場合、2054年1月1日以降にAの子供が亡くなり、新たにその孫が受益者となったときは、その孫が亡くなるまでこの信託契約は存続することになります。したがって、受益者が連続することにより永久に存続するわけではありませんが、場合によっては100年を超えて存続する可能性もあるわけです。そこで、受託者についてもその受託者が死亡した場合の次の受託者に関する定めが必要となります。

 ⑤ 本件信託が終了すると、最後の受益者(Aの子供や孫)の子供か孫が本件不動産を取得するので、本件不動産は、Aの一族のものとして残ります。

 留意点

  上記信託(後継遺贈型受益者連続信託)は、場合によっては存続期間が100年を超えることもある信託ですから、長期の時の経過に耐えるように、家族の状況なども踏まえつつ、具体的な信託条項を工夫しておく必要もあります。

したがって、このような民事信託を設定する場合には、民事信託に詳しい弁護士などの専門家にぜひご相談ください。