前件調停で定められた面会交流に関する条項の変更が求められた事案において、原審では間接交流が相当とされたのに対し、抗告審では未成年者らの意向・心情等の調査を改めて実施し、直接交流の可否や面会交流の具体的内容等を検討する必要があるとして、原審に差し戻した例

【東京高決2022(令4)年8月18日 家庭の法と裁判43号54頁】

【事実の概要】
抗告人と相手方は、長女及び二女(両者を併せて「未成年者ら」という。)をもうけた。しかし、抗告人は、二女出産後、精神的に不安定な状態となり、医療保護入院となった。また、当時の抗告人の言動による影響で、長女も精神的に不安定な状況となっていた。抗告人の退院後は、抗告人は自宅には戻らず抗告人の実家で療養を開始したことから、抗告人と未成年者らは、抗告人の入院以降別居状態にある。

この間、抗告人の入院等がきっかけとなり、未成年者らと抗告人との面会交流には、支援センターが関与することになった。支援センターの協力のもと、面会交流(直接交流や手紙のやり取り)が実施されたが、面会交流を重ねる度に長女が不安定になっているとして、面会交流が中断されていた。

その後、前件調停において、面会交流については、支援センターの指示に従いながら実施方法等を協議して定めることが合意されたが、前件調停後も長女が不安定な様子であったこと等から、支援センターは抗告人と未成年者らの面会交流を再開しなかった。

原審では、長女については、未だ精神的に十分に安定しているとはいい難い状況にあること、二女は父母の葛藤状態に巻き込まれた場合の心理的影響が大きいこと等から、まずは双方向の間接交流を実施し(手紙や写真の送付等)、段階を踏みながら、将来的な直接交流に向けての信頼関係・協力関係を構築していくことが相当として、抗告人と未成年者らの面会交流は間接交流が相当であるとの判断がなされた。

【判決の概要】
抗告人と長女との直接交流については、消極的事情があることは認められるものの、抗告人の精神状態が回復し安定した状態が続いており、抗告人が未成年者らの健全な成長に悪影響を及ぼすような言動をするおそれがあるとはいえないこと、長女の精神状態は従前に比べて安定してきており、間接交流後を通じて抗告人と接触した後も精神的に不安定な状態に陥ることはなく安定していること、長女自身が抗告人との面会交流を望んでいたこと、二女は面会交流によって不安定となったことはなく、間接交流も良好に推移しており、抗告人と二女との直接交流を制限すべき事情はないことといった、直接交流を速やかに実現すべき積極的事情も認められる。原審は、これらの事情を適切に考慮していない点において、取消しは免れない。

また、約2年前に家庭裁判所調査官の調査が行われて以降、調査官調査が行われておらず、長女の年齢や発達の程度に鑑みると、再度調査を実施して長女の意思を適切に把握する必要があること、調査官調査実施後にも間接交流が継続的に実施されたことに鑑みれば、間接交流後の長女の状況や心情等についても、調査官調査を実施する必要がある。加えて、二女については、自己の心情を表明することが可能な年齢となっているから、調査官調査を実施し、その心情や間接交流の状態等を調査する必要がある。

調査官調査を踏まえて、試行的面会交流の実施を積極的に検討し、その結果をも踏まえて、直接交流の可否や面会交流の具体的方法、頻度、内容を検討して定める必要があるというべきである。本件は、更に審理を尽くす必要があるので、原審は取り消して、差し戻すのが相当である。