当事務所の近くに、「幸せな学力を創造する現代の寺子屋」として、小学生から高校生までの生徒たちに学びの場を提供している、有限会社考学舎があります。
 今回、考学舎を設立して子どもたちへの教育事業を立ち上げ、「お絵かき作文ドリル」(朝日学生新聞社)などの著作も出しておられる坂本聰さんにお話を伺いました。

Q 坂本さんは、もともとは教育関係のお仕事ではなくIT関係の会社員だったとうかがっていますが、考学舎を立ち上げるきっかけとなったのは何でしょうか。
 振り返りますと、高校生のときに国際ロータリーの交換留学制度でベルギーに1年間留学したことが大きく影響していると思います。帰国して一橋大学に進学した後、留学生のお世話をするほか、留学中に工夫した勉強方法を活かして中高生たちに学習指導をするようになりました。また、ロータリークラブで色々な経営者と知り合ったことも、自分で会社を立ち上げた今の活動につながっています。

Q 留学のときに工夫した勉強方法とはどんなことですか。
A 「具体的に何なのか」を自分でイメージできるように理解するということです。留学中の授業はフランス語で行われました。私は、授業でノートをとり帰宅してから辞書で意味を調べるようにしましたが、それだけでは、結局何のことかよく理解できませんでした。そこで、友達に聞いたりしながら、自分が具体的にイメージし、理解できるように、より簡単な言い回しへの変換を試みるようになりました。
 私は、留学前は国語が大の苦手だったのですが、帰国後、この勉強法を国語にも応用したところ、国語の成績がとても上がり、得意科目になりました。

Q 大学卒業後、坂本さんがまずIT関係の会社に就職したのはなぜですか。
A 私はもともと機械音痴で、大学も文系(商学部)でした。当時はWindows95が発売されたころで、IT関係の会社に入ってトレーニングしてもらえばこんな自分でも何とか扱えるようになるだろうと思ったのです。当時は文系学生にも門戸が開かれており、運よく採用されたシステム開発の会社に4年ほど勤めました。その中で学んだことは、システム開発には究極の思考力が求められるということでした。システム開発で使われるオブジェクト化(1つの大きな作業を細分化し、それらの要素を組み合わせることで効率性や汎用性を高める)という手法が今の考学舎の活動にも役立っています。また、コミュニケーション力の大切さも実感しました。
 他方で、会社での勤務を続ける限り、自分が本当に好きなこと、やりたいことが十分にできない、と感じるようにもなりました。そこで、会社を退職し、1999年に考学舎を立ち上げました。

Q 坂本さんが本当に好きなこと、やりたいこととは、何だったのでしょう。
A 私は、社会人になってからも、学生時代に面倒を見た子たちに、喫茶店で勉強を教えたり、家庭教師のようなことをしていました。そのうち2人の子は、とても優秀でしたが、バブルの崩壊で一家離散となる等、家庭の経済事情で大学に進学できませんでした。当時も大検はありましたが、今と違って、普通に就職できる時代ではありませんでしたし、彼らの経済状況からも考えられませんでした。そうすると、水商売などにしか就けず、実際に2人のうち1人はホストとしてナンバーワンになったりしていたのですが、この先どうすればいいのか、こういう子たちをうまく社会に出す方法はないのだろうか、と考えるようになりました。彼らのような子どもたちを世の中に出したい、そのために思考力を身に付けさせたい、何とかしたいと思い、私は、考学舎を設立して、この2人のうち1人を一期生に迎えました。考学舎では、教育事業とIT事業の2つを行っています。彼らは、その後IT事業の顧客の会社で働かせて頂くことができました。

 

 

Q 考学舎の教育の特徴はなんですか。
A 「理解力から思考力をつける」ことを目標にして、国語を必修にしています。生徒は6歳から19歳までで、渋谷教室と田園調布教室あわせて60人程です。
 50%強の生徒は学校に通学しつつ考学舎を補習塾的に利用して、残りの子は、学校には行かずに考学舎をフリースクールとして利用しています。
 授業料の減免制度なども設けています。

Q 坂本さんの活動の原動力は何ですか
A 「若者が力を発揮できないことは社会的損失だ」という信念です。
 社会で力を発揮するためには、理解力、思考力を身に付け、自分の思っていることを表現することがとても大切です。ただ、残念ながら学校教育でこういった力を身に付けることは難しいのが実情で、多くの若者は教わる機会すらないまま世の中に出てきます。
 こうした力は、小学校高学年から中学1,2年生までには身に付けてほしく、考学舎に通っている生徒以外にもアプローチしています。私たちが、出前授業をしている、医療系専門学校では、全国で唯一、全員が国家試験に合格し、全員が卒業する、ということに愚直にチャレンジし、実際に2年に1回程度は、全員が国家試験に合格し、卒業していきます。就職先での評判もとても良いと聞いています。
 また、私たちが指導している理解力、思考力、表現力を高める教育メソッドは、子どもだけでなく大人になってからも役に立つものです。例えば、会社内で作業の指示を出すときに、相手が、どのような作業をするか、なぜその作業をする必要があるのかを具体的にイメージ・理解できるように心掛けることは大切です。逆に、指示があいまいで分からないときは臆せず相手に聞いて理解することも、とても大切です。つまり、子どもだけでなく会社に入ってからの大人の世界でも大事なことだと思います。

 考学舎の子ども達には、少しずつ自分たちだけの世界から、外に目を向けてもらうことを通し、実際に社会に対して力を発揮する練習をしてもらっています。それは、高校生を中心に組織された、「N.K考学舎」というボランティアグループです。このグループは、世界三大奉仕団体の1つ、キワニスインターナショナルに正式認証された組織となり、先日3月30日には、東京キワニスクラブが実施する、子ども食堂のお手伝いとして、小学生以下の来場者に凧作りと凧あげ体験会を実施、行列ができるほどの好評を博しました。
 若い人たちに、ぜひとも自分の力を発揮できるようになってほしい。その思いが私の原動力です。

【お話を聞いて】
 「若い人たちが存分に力を発揮できるようにしたい。」という坂本さんの熱い思いと強い信念に、大きな刺激を受けました。
 私たち弁護士も、多くの事件を通して、個人が幸せに生きていくためには多角的な思考力や想像力、そして他者への共感力を身に付けることがとても大切であることを実感しています。当事務所には、その思いから、子どもたちへの法教育に携わる弁護士もいます。
 子どもたち、若い人たちの幸せな将来のため、坂本さんの今後益々のご活躍を応援しております。