子の引渡しを命じた家事審判が確定したが、引渡義務を履行しないとして間接強制を申し立てたが、権利濫用に当たるものとして却下された例
【事案の概要】
抗告人(母)が、相手方(父)は審判により抗告人に対し子を引き渡すべきものとされたにもかかわらず、その引渡義務を履行しないと主張し、引渡義務の間接強制を申立てた。原審が、抗告人の申立を、権利の濫用に当たり、相当でないとして却下したところ、抗告人がこれを不服として執行抗告をした。
〔名古屋高等裁判所2022(令4)年3月31日決定 家庭の法と裁判44号53頁〕
【決定の概要】
間接強制の申立てを受けた執行裁判所は、提出された債務名義に表示された義務についてその履行の有無や履行の可否など実体的な事項を審査することはなく、当該義務の履行があったことや当該義務が履行不能であることなどを理由として申立てを却下することはできないのが原則である。原審判の引用する最高裁平成31年4月26日第三小法廷決定・裁判集民事261号247頁もそのような前提に立ちつつ、未成年の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ同人の引渡しを実現するために合理的に考えられる行為を債務者において具体的に探り当てることが非常に困難であることが、間接強制の申立てに先行する手続における裁判機関等の判断が示されているものではないが、本件審判確定後、債務者である相手方は本件審判に基づく義務の履行をしようと最大限努力をしたが、功を奏せず、これ以上引渡しを進めようとすると、子の福祉を害する結果となることからこれを断念したものであるから、上記最高裁決定のいう、未成年者の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ同人の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる相手方の行為を具体的に想定することが困難な状況にあることは共通するといってよいものと判断し、相手方の申立てを権利の濫用に当たるものとして、本件抗告を棄却した。