母と前夫(いずれもフィリピン国籍)の婚姻を無効とする判決の確定前に出生した子(申立人)が、相手方(日本国籍)に認知を求めた事案において、申立人と前夫との間に嫡出親子関係を認めることはできないとしたうえで、申立人が相手方の子であることを認知する旨の合意に相当する審判がなされた事例

【東京家審2022(令和4)年1月19 日 家裁の法と審判42号71頁】

【事実の概要】
 フィリピン国籍の母は、同国籍の夫と同国で婚姻した。その後、母は来日したが、夫は来日を希望せず、夫婦関係は悪化し、母と夫は会うことがなくなった。
 母は、日本国籍の男性(相手方)と交際し、子(申立人)を出産した。母は、父の欄を空欄にして申立人の出生届を提出し、フィリピン大使館にも、父はいないものとして申立人の出生を届け出た。申立人は、フィリピン国籍を有している。
 フィリピンの地域裁判所は、フィリピン家族法に基づき、申立人と前夫の婚姻が当初から無効であることを宣言する判決をし、この判決は確定した。
 申立人は、相手方に対し、認知を求めて調停を申し立てた。調停において、当事者間に、「申立人が相手方の子であることを認知する」旨の審判を受けることについての合意が成立し、また、相手方が申立人を認知することについての原因についても争いはなかった。
 なお、DNA鑑定の結果によれば、相手方が申立人の生物学的父である可能性は非常に高いとされている。

【審判の概要】
以下を理由とし、家事事件手続法277条により、「申立人が相手方の子であることを認知する」との審判がなされた。

(1)国際裁判管轄
 相手方の住所が日本国内にあることから、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる(法の適用に関する通則法28条1項)。

(2)嫡出親子関係の不存在について

    1.  認知の前提として、子が他の者との間で親子関係がないことが必要である。 前夫と申立人の間の嫡出親子関係については、前夫と母の本拠地であるフィリピン法が適用される。
       フィリピン家族法では、①婚姻の絶対的無効判決が確定する前に懐胎又は出生した子は嫡出子とみなされること、②同家族法172条に規定される方法によって、親子関係が証明されること、③親子関係の存在を前提に、父母の婚姻中に懐胎又は出生した子は嫡出子とされること、④嫡出性の否認は、夫又はその相続人のいずれかが訴えを提起しなければならないこと、等が規定されている。
    2.  本件では、母と前夫の婚姻を無効とする判決が確定しているが、①より、申立人と前夫との間の嫡出親子関係は遡及的に否定されない。
       しかし、申立人は、日本及びフィリピンのいずれにおいても父が存在しないとして出生届が提出され、その他、同法172条に規定される証拠はないから、②により、申立人と前夫との親子関係は認められない。
       したがって、④によるまでもなく、申立人と前夫との間の嫡出親子関係を認めることはできない。

(3)認知(嫡出でない親子関係)について
 父となるべき者である相手方の本国法である日本法が準拠法となる(法の適用に関する通則法29条1項)。
 相手方が申立人の生物学的父であると認められるから、申立人は相手方の子として認知されるべきである(民法779、787条)。