相続によって取得した財産が特有財産として現存することが証拠上認められなくても、上記財産を取得していたことによって基準時における財産分与対象財産が増加し、あるいはその費消を免れたことが推認できるとして、民法768条3項の「一切の事情」として考慮し財産分与の額を定めた事例
【東京高決2022(令4)年3月25日 家庭の法と裁判42号37頁】
【事実の概要】
離婚した元夫婦間の財産分与請求事案につき、元夫が、財産分与基準日(別居時)における元夫名義の預金の一部に、約7年前に元夫が相続した約2900万円の預金等の特有財産が含まれていると主張して、財産分与対象財産の範囲を争った。原審(東京地裁令和3年11月25日審判)は、相続財産の一部が現存しているとして特有財産と認めたが、その余の預金(本件預金)は、相続によって取得した資金が基準時の残高に残存していたことを裏付ける資料はないとして、本件預金を財産分与対象財産に含め、財産分与として5441万円の支払を命じた。これを不服として元夫が抗告した。
【決定の概要】
抗告審も、原審の判断を維持して本件預金を特有財産とは認めなかったが、「抗告人の相続した2882万7500円の預金は高額であり、相手方には収入がなく、一方で抗告人の基準日までの収入に照らして、同相続預金の取得は…基準日における抗告人名義の財産を増加させ、あるいはその費消を免れさせたものと推認できるから、それを本件における財産分与において、合理的な範囲で考慮するのが相当であるので…上記相続預金の取得の事実を財産分与における一切の事情として考慮することとする。」と判示し、財産分与額を5000万円に変更した。